ボトックス治療
治療対象疾患
- 片側顔面けいれん、眼瞼けいれん
- 脳卒中後の痙縮(けいしゅく)
ボトックスとは、ボツリヌス菌の毒素を治療用に改良されたものです。ボトックスは「筋肉の緊張を緩める作用」があり、けいれんしている顔の筋肉や、緊張している手足の筋肉を緩めてくれます。この薬は筋肉に直接注射することで、「神経筋伝達を阻害」し一度注射することで数か月効果が持続します。
現在保険適応となっているものに、顔面けいれん、眼瞼けいれん、痙性斜頸、脳卒中後の痙縮などがあります。これらの病気で日常生活に支障をきたす場合で、お薬を使っても症状に改善がない場合はボトックス治療の適応となります。
片側顔面けいれんとは?
片側の目の周りや口の周りの筋肉が「ぴくぴく」と自分の意志とは無関係にけいれんする病気です。緊張したりするとよけいに悪化します。症状が強い場合は、目が勝手に閉じてしまう場合もあります。
原因は顔の筋肉を動かす「顔面神経」が脳からの出口の近くで「血管」に圧迫され、その結果顔の筋肉が刺激されけいれんをおこします。「血管による圧迫」以外にも「腫瘍による刺激」の場合もあります。
治療としては「抗てんかん薬」が有効な場合がありますが、眠気などの副作用がみられることがあります。その場合は「ボツリヌス治療」が行われます。症例によっては「脳外科手術」によって、顔面神経の血管との圧迫をとる手術が行われる場合があります。
症例 62歳 女性
約半年前から左の眼の周りや左の口の周りがぴくぴくするようになりました。人と話をしているときなど緊張する場合は症状が悪化します。
頭部MRI検査では左顔面神経に血管の圧迫が認められているようです。
片側顔面けいれんの診断で「抗けいれん剤」の内服治療が開始となりましが、症状は軽快するものの眠気が強く薬は中断となりました。
その後、顔面のけいれんを起こしている筋肉にボトックス注射を行ったところ、注射後1週間したころから症状が軽快し、数か月効果が持続しました。薬が切れかけたころ顔面けいれんが再発してきたので再度ボトックス注射を行い、定期的に注射を行っています。
脳卒中後の痙縮
脳卒中は最近では死亡率はあまり高くないものの、片麻痺や言語障害などの後遺症を残すことが多く、要介護状態となる大きな原因の一つです。
脳卒中後の片麻痺に伴い半身の「痙縮」が起こり、日常生活の妨げになります。痙縮とは筋肉の緊張が高くなっている状態で、立ったり歩いたりが困難になり、痛みを起こしたり、関節の変形の原因となります。
痙縮に対する有効な治療の一つが「ボトックス療法」です。手や足の緊張した筋に「直接注射」をすることで、筋の緊張が緩み、機能の改善が期待できます。脳卒中ガイドラインでもボトックス治療は推薦されている治療法です。
症例 68歳 男性
以前から高血圧があったが放置していた。食事中に急に倒れて意識障害がみられ救急搬送された。頭部検査では脳出血がみられたが、手術なしで入院加療となった。入院時は左半身の麻痺がみられためリハビリテーションが開始になった。その後左半身は動くようになったが、ツッパリ感がみられるようになる。肘と手首は曲がり、手も開きにくい。歩行時は足首が伸びてかかとがつかないため歩きにくい。装具をつけて歩行訓練をしている。
退院後も左手足のツッパリ感が継続するため、緊張が高くなっている筋肉に直接「ボトックス注射」を行った。その後筋肉の緊張が緩んだため、かかとが床につきやすくなり、腕や手首も伸びるようになったため、入浴やトイレなどの動作が楽になった。ボトックスの効果は数か月できれるため、痙縮が再発してきた時点で再度注射を行った。
症例 78歳 女性
約5年前に脳卒中を発症してから「寝たきり」に近い状態になっている。周囲との意思の疎通は困難な状況である。少しずつ手足の筋肉の硬直が進み、両側の肘、手首が曲がり、手は常に握った状態になっている。手を広げようとしても固くなっており、手のひらの清潔を保つことができない。また手が曲がっているため、服を着替えさせるのも難しくなっている。
両上肢の痙縮を起こしている筋肉にボトックス注射を行った。注射の結果しばらくしてから筋肉の緊張が緩み、手を広げやすくなり手の清潔が保たれ爪もつみやすくなった。また肩の動きがよくなったため服の着替えがしやすくなった。今後効果がきれて硬くなってきた場合は再度ボトックス注射を行う。